研究内容

 

「高分子デザインで、医療に革新をもたらすナノマシンを実現!」を掲げて研究を行なっています。研究のストーリーが本学の記事になっておりますので、ご興味ある方はこちらをクリックしてください。

また、生命理工学院のHPでも研究室紹介を行なっております。こちらです!

研究紹介

ポリフェノールを基盤とした自己会合型ナノキャリアの構築とタンパク質送達システムへの展開 2021年8月

「スライムの化学」を利用した第5のがん治療法 2020年1月

精密設計機能性高分子を基盤とした薬物送達システムの光線力学療法への展開 2019年11月

エチレンジアミン構造に基づく高分子ベタインの電荷制御とナノ粒子の腫瘍送達への展開 2018年6月

高分子-siRNA結合体におけるリンカーのデザインと生物活性制御 2017年2月

研究解説動画  すぐにわかる高分子デザインによる次世代の診断・治療薬の開発

 

我々が健康で豊かな生活を行う上で薬の存在は必要不可欠です。薬を開発するプロセスは創薬と呼ばれますが、現代医学における創薬は、ターゲットの探索、候補化合物のコンビナトリアル合成とスクリーニング、リード化合物の同定と最適化を経て、さらに実験動物による有効性・安全性試験、患者さんに対しての臨床試験において合格した化合物が新薬として実用化されます。このプロセスにおいて、候補化合物のうち臨床試験に進むことができるのは0.011%、新薬として承認されるのはわずか0.003%と言われており(製薬協データブック2011)、数千億円とも言われる莫大なコストと10年以上に及ぶ開発期間が必要となります。さらに、これまでに様々な化合物が開発され、従来と同様な創薬プロセスでは新規化合物を見出すことが益々困難になってきていると言われています。

一方、近年のバイオテクノロジーの急速な進歩によって、アプタマー、ペプチドおよび抗体といった標的化分子をはじめとするさまざまな機能性分子が開発され、それらの医薬品としての実用化が期待されています。また、材料科学、ナノテクノロジーを基盤として、環境・刺激に応答するスマート分子・材料の開発が盛んに行われています。これらの分子・材料も高付加価値な医薬品分野への応用が期待されています。しかしながら、これらの機能性分子は非常に大きなポテンシャルを秘めているものの、医薬品としての応用は必ずしも期待通りには進んでいないように思います。

このような背景において、我々は、精密合成高分子をプラットフォームとする新しい薬の開発、すなわち「高分子創薬」に関する研究を行っています。薬の機能を高めるためには、薬とその効能を高める機能性分子を合体させることは極めて有効なアプローチであると考えられますが、直接的に結合してもお互いの機能が阻害され、さらに体内に投与した際の行き先が大きく変わってしまうために期待した効果はなかなか得られません。運動会の二人三脚では上手に走れないのと同じです。そこで高分子創薬の考え方では、合成高分子をプラットフォームとして薬や機能性分子を一分子中に創り込むことによって、薬に新たな機能を付加していきます。例えれば、合成高分子は、自動車のようなもので、沢山人が乗ってもちゃんと目的地まで到着することができますし、喧嘩することもありません。すなわち、合成高分子が、薬の機能を高め、最先端技術で生み出されたさまざまな機能性分子を融合させ実用化へと結びつけるための架け橋となるのです。高分子をスマートフォンに例えるなら、薬や機能性分子は搭載するアプリと考えることができ、その可能性は無限大です。

このような「高分子創薬」において基盤技術となるのが、高分子の一次構造を精密に制御し、位置選択的に官能基を導入するための精密高分子合成技術です。一般的には、このような高分子はリビング重合といわれる方法によって合成されます。このような精密合成高分子の医療応用は、我が国が世界をリードしてきた分野でもあります。資源化学研究所 高分子材料部門(西山研究室)では、精密合成高分子のプラットフォームに、薬剤担持機能、標的細胞選択的に結合する機能、細胞内環境に応答して構造を変化させる機能を創り込むことによって生体内で高度な機能を発現するナノ医薬品(ナノメディシン)を構築し、効果に優れ副作用の少ないがん治療、次世代バイオ医薬品(抗体、オリゴ核酸)の実用化、生体機能イメージング、医療機器との融合による超低侵襲治療などの最先端医療に展開していくことを目指しています(図1)。ナノメディシンは、表1に示すように、医療、社会基盤、産業に対して、さまざまな医療イノベーションをもたらします。わが国の強みである「ものづくり」を基盤とする高分子創薬は、来るべき超高齢・成熟社会におけるさまざまな問題にソリューションを提供し、医療産業のグローバル化のなかで日本が世界をリードしていくためのキーテクノロジーとなると私は確信しています。

図1
表1
  • 東京工業大学
  • 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 化学環境学専攻
  • 東京工業大学 資源化学研究所